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名古屋地方裁判所 昭和47年(ワ)1991号 判決

昭和四七年(ワ)第一九九一号事件原告・

和田運輸有限会社

第二六五六号事件被告

昭和四七年(ワ)第一九九一号事件被告・

有限会社丸富自動車

第二六五六号事件原告

主文

一  昭和四七年(ワ)第一、九九一号事件被告兼昭和四七年(ワ)第二、六五六号事件原告は昭和四七年(ワ)第一、九九一号事件原告兼昭和四七年(ワ)第二、六五六号事件被告に対し、金二万八、七〇〇円および内金二万六、一〇〇円に対する昭和四四年一一月五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  昭和四七年(ワ)第一、九九一号事件原告兼昭和四七年(ワ)第二、六五六号事件被告は昭和四七年(ワ)第一、九九一号事件被告兼昭和四七年(ワ)第二、六五六号事件原告に対し、金一六万六、二〇〇円および内金一六万三、七〇〇円に対する昭和四五年二月二四日から、内金一、三〇〇円に対する同年三月一六日から、内金六〇〇円に対する同年四月一六日から各完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

三  昭和四七年(ワ)第一、九九一号事件原告兼昭和四七年(ワ)第二、六五六号事件被告のその余の請求を棄却する。

四  昭和四七年(ワ)第一、九九一号事件被告兼昭和四七年(ワ)第二、六五六号事件原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を昭和四七年(ワ)第一、九九一号事件原告兼昭和四七年(ワ)第二、六五六号事件被告の負担とし、その余は昭和四七年(ワ)第一、九九一号事件被告兼昭和四七年(ワ)第二、六五六号事件原告の負担とする。

六  この判決は、主文第一および第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

以下昭和四七年(ワ)第一、九九一号事件を単に「甲号事件」と、昭和四七年(ワ)第二、六五六号事件を単に「乙号事件」と、昭和四七年(ワ)第一、九九一号事件原告兼昭和四七年(ワ)第二、六五六号事件被告を単に「原告」と、昭和四七年(ワ)第一、九九一号事件被告兼昭和四七年(ワ)第二、六五六号事件原告を単に「被告」とそれぞれいう。

第一当事者の求めた裁判

(甲号事件について)

一  原告

1 被告は原告に対し、金二九万四、六三五円および内金二四万四、六三五円に対する昭和四四年一一月五日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  被告

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(乙号事件について)

一  被告

1 原告は被告に対し、金二〇万七一〇円およびこれに対する昭和四五年二月二四日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  原告

1 被告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

(甲号事件について)

一  請求原因

1 (被告の不法行為)

原告は被告に対し、昭和四四年一〇月一五日、原告の所有する大型貨物自動車(名古屋四う二、六九三号、以下本件自動車という。)を車検更新のための修理を依頼して引渡したところ、被告は右自動車の修理を完了し、同月二五日原告方に納入するために被告会社従業員をして運転走行中、名古屋市西区堀越町名岐バイパス入口先路上において訴外岐阜トラツク株式会社の車両と衝突し右自動車を大破せしめるに至つた(以下本件交通事故という)。

よつて被告は、右不法行為により民法七一五条、七〇九条に基づき、原告の左記損害を賠償する義務がある。

2 (損害)

(一) 休車損害 四万三、五〇〇円

原告は陸上運送業を営んでおり、本件自動車の使用によつて一日平均四、三五〇円の純利益(荒利益より人件費、ガソリン代その他控除したもの)を得ていたところ、被告の前記不法行為によつて、被告から本件自動車を修理して引渡しを受ける予定になつていた同年一〇月二五日から、前記交通事故のために大破した本件自動車が訴外愛知マツダ株式会社で修理されて原告に引渡された同年一一月四日までの一〇日間にわたり本件自動車を使用することができなかつたので、右期間中四万三、五〇〇円の得べかりし利益を喪失した。

(二) 格落ち損害 一五万円

本件自動車が事故車となつたことに基づく価値下落分の損害

(三) 営業損害 五万一、一三五円

原告は被告から本件自動車の引渡しを受け次第、直ちにすでに受注していた訴外高砂鉄工株式会社の重量物運送を予定していたところ、被告の前記不法行為によつて早急に本件自動車を利用することが不可能となり、また代替車の備車その他の措置も功を奏さなかつたので同会社から右運送契約を解約され、さらに信用を害した結果長年の間常時運送依頼を受けていた同会社という上得意先を失つてしまつた。そのために原告は甚大な営業上の損害を被つたが、そのうち五万一、一三五円の支払を求める。

(四) 弁護士費用 五万円

原告は被告に対し、前記損害の支払を再三にわたつて請求したが、その支払を受けられないばかりか訴外愛知マツダ株式会社から本件自動車の修理代金の支払命令を受けるに至り、やむなく原告訴訟代理人らに対し本件訴訟を依頼したので、これに伴う弁護士費用のうち被告に支払義務のある五万円を損害として求める。

3 (結論)

よつて原告は被告に対し、右(一)ないし(四)の損害合計二九万四、六三五円および内金二四万四、六三五円に対する本件不法行為発生の日の後である昭和四四年一一月五日以降完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告の答弁

1 請求原因第1項の事実は認める。

2 同第2項(一)の事実中原告が陸上運送業を営んでいることおよび大破した本件自動車の修理期間中得べかりし利益を喪失したことは認めるが、その余は争う。被告が本件自動車を修理すれば五日間で足りるから原告の主張する休車期間は相当でない。

同(二)ないし(四)は否認する。本件自動車は中古車両であつて本件事故当時の時価は約一四万円であり、事故後の下取価格も約一四万円であつたから、原告には格落ち損害は生じなかつた。

(乙号事件について)

一  請求原因

1 被告は自動車の修理業を営むことを目的とする会社である。

2 被告は、代金支払期日を毎月二〇日締切り翌月上旬と定めて、昭和四四年九月二七日から昭和四五年二月二三日までの間被告から自動車の修理の依頼を受け、別紙目録記載のとおり原告所有の各自動車の整備および破損の修理をなし被告に引渡した(但し、同目録6記載の自動車すなわち本件自動車については修理を了えて原告方に運搬中本件交通事故によつて破損したのでその状態で引渡した。)。そしてその修理代金合計は二〇万七一〇円となる。

よつて被告は原告に対し、右代金二〇万七一〇円およびこれに対する昭和四五年二月二四日以降完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する原告の主張

1 原告の認否

請求原因第1項の事実は認める。同第2項の事実は代金支払時期の定めを除き認める。但し、被告は本件自動車については一旦修理を了えながら本件交通事故によつてこれを大破せしめたままの状態で引渡したものであるから、原告には右自動車に対する修理代金を支払う義務がない。

2 原告の抗弁(消滅時効)

被告の求める修理代金は、民法一七三条二号にいう「製造人の仕事に関する債権」に該当し二年の短期消滅時効に服するから、修理の最終日である昭和四五年二月二三日から二年を経過した日に既に消滅した。

三  原告の抗弁に対する被告の主張

1 被告の認否

原告の抗弁は否認する。被告は、修理工場を設けて自動車の修理業を営んでいるものであるから、自動車の修理に基づく代金債権は「製造人の仕事に関する債権」に該当しない。

2 被告の再抗弁(時効の中断)

仮に右主張が認められないとしても、被告は原告からの訴外愛知マツダ株式会社における修理代金の請求に対し、昭和四五年三月、同年九月末頃、昭和四五年三月末頃被告の原告に対する右修理代金債権でもつて相殺する旨の意思表示をしており、これは消滅時効に対する中断事由(催告)に該当するから、右修理代金債権は時効によつて消滅していない。

四  被告の再抗弁に対する原告の主張

被告の再抗弁は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  (甲号事件について)

1  請求原因第1項(被告の不法行為によつて本件自動車が大破した事実)は当事者間に争いがない。

2  そこで原告の被つた損害について検討する。

(一)  休車損害

原告が陸上運送業を営んでいることは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によると、原告は、本件交通事故による本件自動車の破損によつて、被告から右自動車の引渡しを受ける予定になつていた昭和四四年一〇月二五日から少なくとも訴外愛知マツダ株式会社が破損した本件自動車の修理を了えた同月三〇日までの六日間にわたつて、本件自動車を運送業に使用することができなかつたこと、当時本件自動車による一か月の営業収入は平均一九万九、二五〇円であつたが、これに対し人件費五万五、〇〇〇円、燃料費一万三、七五〇円を支出していたことが認められる。再修理に一か月を要したとする原告本人尋問の結果は〔証拠略〕に照らし措信できない。すると、営業上の純益は一日あたり四、三五〇円となり、右休車期間において原告が喪失した得べかりし利益の合計額は二万六、一〇〇円となる。これに対し被告は右休車期間が不相当に長いと主張するが、〔証拠略〕によると破損した本件自動車の修理に要した費用は一八万六、九七〇円であつたことおよび被告が右自動車を修理したとしてもそのために五日ないし七日を要することがそれぞれ認められるので、修理期間として前記六日程度の期間は妥当なものであるといわなければならない。

(二)  格落ち損害

原告は本件自動車が事故車となつたことに基づく価値下落分の損害として一五万円を主張する。なるほど本件のごとく事故車が修理を了えても売却の際には低く評価されてしまうことが通常であることは公知の事実であるが、本件記録に顕われた全証拠によるも、本件自動車の事故前の時価および事故後の時価の差、すなわち格落ちの損害額を示すに足りる証拠は存しない。

(三)  営業損害

原告は、本件自動車が使用できないために得意先を失い、営業上の損害として五万一、一三五円の損害を被つたと主張する。〔証拠略〕によると、原告は本件交通事故によつて本件自動車を使用することができなくなり、右自動車の専属契約先である高砂鉄工株式会社から取引を解消されそうになつたので、同会社の管理職をキヤバレー等に接待して飲食費として合計五万一、一三五円を支出したこと、その後同会社とは取引がなかつたが半年後には再び取引を継続するに至つたことが認められるが、右接待費は特別事情による損害と考えられるところ、取引を継続するため右の如き費用を要することを通常予測すべきであるとまではいえないから、右費用は本件交通事故と相当因果関係のある損害ということはできない。また本件記録に顕われた全証拠によるも、その余の原告の営業上の損害を認めるに足りる証拠はない。従つて、原告の右請求は失当である。

(四)  弁護士費用

原告が原告の訴訟代理人らに対し本件訴訟の提起を委任したことは本件記録上から明らかであり、認容額、事案の内容などに照らし、本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は二、六〇〇円と認めるのが相当である。

二  (乙号事件について)

1(一)  被告が自動車修理業を営むことを目的とする会社であること、被告が原告から依頼を受けて昭和四四年九月二七日から昭和四五年二月二三日までの間にわたつて別紙目録のとおり原告所有の各自動車を整備ならびに修理し、その代金合計は二〇万七一〇円(本件自動車の修理代金三万四、五一〇円を含む)となつたこと、被告は原告に対し同目録6記載の自動車(すなわち本件自動車)を除いてすべて修理を了えた状態で引渡したが、右自動車については修理を了えて原告方に納入するため運搬中本件交通事故によつて破損したのでそのままの状態で引渡したことはいずれも当事者間に争いがない。ところで原告は、破損したままの状態で右自動車の引渡しを受けたのであるからこれについては修理代金を支払う義務が発生しないと主張するので、この点について検討するに、自動車を修理業者に引渡して修理を依頼する契約は寄託および請負の混合契約であつて、修理業者には仕事を完成する義務(民法六三二条)があるから、修理を依頼された自動車の修理を了えたうえで注文者にその引渡しをしなければならず、修理を了えた後その引渡を完了する前に自己の責任によつて自動車を破損した場合には、仕事を完成する義務は債務不履行となり(修理業者が修理した自動車の引渡について注文者のもとに運搬する義務がなく注文者の方でそれを引取る場合も同様である。)、修理業者は修理代金を請求する権利を失うというべきである。したがつて、被告が原告に対して請求しうる修理代金は、昭和四四年九月二七日から昭和四五年二月二三日までの間の修理代金合計二〇万七一〇円から本件自動車に対する修理代金三万四、五一〇円を控除した残額一六万六、二〇〇円である。

(二)  〔証拠略〕によると、原被告間で自動車の修理代金の支払期日につき毎月二〇日締切り翌月一五日支払と定められていたことおよび前記修理代金のうち金一、三〇〇円は昭和四五年三月一五日、金六〇〇円は同年四月一五日、その余はすべて昭和四五年二月一五日以前が弁済期である事実が認められる。

2  次に原告は自動車の修理代金債務が民法一七三条二号に該当するので本件修理代金債務は短期消滅時効によつて消滅したと主張するので、この点について判断する。〔証拠略〕によると、被告は名古屋市中村区岩塚本通三丁目三番地において約一〇〇坪の自動車修理工場を有し従業員五名を雇傭して自動車修理業を営んでいるものであつて、右工場において原告所有の自動車の修理をなしたことが認められる。ところで同法一七三条二号にいう「居職人および製造人」とは手工業的・家内工業的規模で営む者のことをいうのであつて、右認定のごとく相当規模の修理工場を設けて自動車の修理業を営むものを含まないと解するのが相当である。したがつて本件修理代金債権の消滅時効期間は民法一七〇条二号により三年というべきである。さらに被告が右消滅時効が完成するに要する期間の経過する以前である昭和四七年九月一三日本件修理代金債権の支払命令を愛知中村簡易裁判所に申請し、これに対する原告の異議によつて通常の訴訟に移行していることが本件記録上明らかであり、右支払命令の申請によつて本件修理代金債権の時効は中断している。よつて本件修理代金債権が時効によつて消滅したとの原告の主張は失当といわなければならない。

三  結論(甲号・乙号各事件)

以上の次第で、原告の被告に対する本件請求は、金二万八、七〇〇円および内金二万六、一〇〇円に対する本件不法行為発生の日の後の日である昭和四四年一一月五日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当としてこれを認容し、原告のその余の請求を棄却し、被告の原告に対する請求は、金一六万六、二〇〇円および内金一六万三、七〇〇円に対する弁済期日の後の日である昭和四五年二月二四日から、内金一、三〇〇円に対する弁済期日の翌日である同年三月一六日から、内金六〇〇円に対する同様の同年四月一六日から各完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当としてこれを認容し、被告のその余の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 丸山武夫 安原浩 打越康雄)

目録

〈省略〉

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